薬には、開発当初の意図や目的とは反して、あれれ??こんな作用もあるの。だったら、こっちの病気の薬に使った方がええやん、てなことがよくあります。
開業医になって、“本当に”いろんなことをするようになりました。もちろん日々の診療、そのほか給与計算など事務作業・・・。世間の医者のイメージ(ベンツのってて、ブランド好き)とはかけ離れているかもしれませんが、掃除もします。床にこびりついたガムの汚れ。私はサラダ油でこすっておとしています。サラダ油って、こんな使い方もあるんだ!たとえがイマイチですか・・・。
ちなみに、私は、車はアイシス・服はユニクロ(最近太りすぎて入りにくい)・時計はALBA、いずれも快適です。
Lancet誌(医学界ではかなり権威がある。故にその結果は信憑性が高い!?)に掲載された、難治性の慢性咳嗽の治療についての論文です。この時期、風邪症状の患者さんも多いです。とりわけ、なかなか治らない咳には、患者さんも不快ですし、私も治療には苦慮しています。
こうした症状の患者さんの中には、百日咳やマイコプラズマ肺炎、肺結核などの感染症、気管支喘息などのアレルギー疾患、気管支拡張症や肺気腫などの慢性の肺疾患、肺癌などの癌による刺激や、胃食道逆流症による胃酸の刺激など、様々な原因疾患がありますが、そうした可能性が全て否定され、かつ通常使用される、咳止めや抗生物質、喘息治療剤や抗アレルギー剤、ステロイド剤や胃酸分泌抑制剤などを、適切に使用しても、概ね2か月以上咳症状の改善が認められないものを、難治性(もしくは治療抵抗性)慢性咳嗽と呼んでいます。
上記の文献によれば、欧米において人口の11~16%が慢性咳嗽に罹患し、紹介患者の20~42%が、適切な治療によっても改善していない、というデータもあります。つまり、難治性慢性咳嗽は、決して稀な病気ではありません。
難治性慢性咳嗽のメカニズムは、詳細は不明ですが、咳の出るのは咳反射が亢進しているからで、それはその局所に気道の過敏性があって、咳刺激に対して敏感に反応している場合と、より中枢性の神経系に、その過敏性が存在している場合の、大きく分ければ2通りが存在し、その両者の合併もまた考えられます。
局所の過敏性が原因であれば、その気道過敏性を、抑えるような治療が有効な筈です。このメカニズムは気管支喘息に似ていますから、治療には主に喘息の治療薬が用いられます。
一方で中枢性の過敏性というのは、感覚を伝達する神経の経路に問題があり、咽喉や気道は特に過敏でなくとも、その信号の伝達の経路で、過剰な神経の興奮が起こり、それが咳刺激の原因となるのです。従って、このタイプのメカニズムであれば、喘息の薬など使っても効果はなく、むしろ神経の過敏性を抑えるような薬の方が、より効果が期待出来る、ということになります。
この目的にこれまでもっぱら使われて来たのが、モルヒネのような麻薬です。麻薬は、なにかと使いにくい面もあり、代用品を使用しては・・。麻薬の代用品として慢性疼痛の治療に使用されるタイプの、抗痙攣剤を使用する、という発想が生まれました。
慢性疼痛にはガバペンチンやプレガバリン(リリカ)などの、抗痙攣剤が使用されますが、これは神経の過敏性を抑える目的で、その意味で症状は痛みと咳というように異なってはいても、そのメカニズムには相同性があり、同種の薬剤が効果のある可能性があるのです。
そこで今回の文献では、オーストラリアにおいて、8週間以上、日常生活が制限されるような、慢性の咳症状が続き、咳止めや吸入ステロイドなどの治療が無効の、難治性慢性咳嗽の患者さんを、くじ引きで2つの群に分け、一方には抗痙攣剤のガバペンチンを、もう一方には偽薬を使用して、その後8週間の経過を観察しています。
その結果、ガバペンチンの使用により、偽薬と比較して、有意に咳の回数や強さは減少し、患者さんのADLも改善が認められました。その副作用は、吐き気や腹痛、めまいなどが主なもので、重篤なものは認められませんでした。8週間の使用後ガバペンチンを中止すると、再び咳症状は増悪が認められました。
慢性咳嗽が通常の治療で改善せず、従来であれば麻薬を使わざるを得ないような状況であれば、ガバペンチンの使用は一考に値します。プレガバリン(リリカ)も、ほぼ同等の作用の薬ですから、同様に有効性が期待出来るということになります。
長引く咳、うっとおしいものです。私も患者さんをスカッと治して、名医と言われてみたい・・・。